人や動物の嗅覚について
人が嗅ぎ分けられる香りは、何種類?
ここでヒトについても紹介しておきましょう。ヒトがもつ、においに関する遺伝子は500~700個といわれています。味覚が5個、視覚3個といった数と比較すると大変な違いです。しかもそれがヒト遺伝子の総数の2%に相当するとしたら……。ヒトがどれだけにおいを重視したつくりになっているかがうかがえます。
2004年、においに関しての画期的な研究にノーベル医学生理学賞が与えられました。米コロンビア大学のリチャード・アクセル教授と、米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのリング・パック博士らは遺伝子工学的な方法を用いて研究。においを受け取るセンサーとして機能する受容体が、ラットにおいて約1000種類あることを突きとめたのです。さらに1つの嗅細胞がもつ、においの受容体は1種類であることも発見しています。
これは1つのにおいに対して1つの細胞がにおいを認知しているということで、1980年代には20種類しかないといわれていたことから考えると劇的な発見になります。今後この遺伝子標識という技術を用いて、1千種類ある受容体のどれが発現するかで、1つひとつの嗅細胞の識別が可能になります。また、個々のにおい情報がどのような回路を伝わって脳に流れるかが判明するでしょう、それは中枢神経の回路形成のしくみを解明するうえで、嗅覚が非常に役立つ可能性があります。実はこのノーベル賞は、脳の高次機能解明につながるとして、高い評価を得たのです。
しかし、においの本質解明にはまだはど遠いのが現状です。ヒトには350種類はどのにおい受容体遺伝子があるといわれていますが、においの種類は約40万種あるのです。そのうちヒトが嗅ぎ分けることができるにおいは約1万種。ほんのひと握りなのです。
この地球上にある約40万種類ものにおい分子をヒトや動物は、どうやって嗅ぎ分けているのでしょうか? おそらく複数のにおい受容体遺伝子を組み合わせて識別していると考えられます。
そんなにおいの受け手である嗅細胞はいくつあるのでしょう?鼻の上部にあるにおいの感知器官。嗅細胞、嗅粘膜はヒトで約500
万個。切手1枚分の大きさです。いちばん鼻がききそうなイヌはどうでしょう。イヌの嗅細胞は約2億個で、鼻腔全体の上部に嗅粘膜
が張りめぐらされています。その嗅細胞1個あたりの表面積はシェパード犬で7.9平方メートルに対して、ヒトはその1万分の1。これ
だけでも大きな差をつけられています。そして嗅細胞から伸びる触角ともいえる嗅繊毛は長さ30~50ミクロンと長いうえ、約125本
あります。ヒトの嗅繊毛が数本で、長さが1~2ミクロンということから、イヌはヒトとは段違いの数であり、サイズなのです。
イヌはヒトよりはるかにたくさんのにおい分子を嗅ぎ分けられそうなことが、においの受け手である嗅細胞の数からもうかがえます。
もしイヌと言語が通じるようになれば、どのようなにおいが感じられるのかがわかり、においの研究も発展するに違いありません。
慣れてしまったニオイを再度、感じられるようになる方法
鼻がにおいに慣れてしまったなあと思ったら、一度自分の服のにおいなど、違うにおいを嗅ぐと復活します。 6000種類もの香り を嗅ぎ分ける調香師や、食品の香料を調合するフレーパリストなど、香りを職業とする人たちは、自分の服のにおいを嗅いで、ふ たたび仕事を始めるそうです。
香水も同じものをつけ続けると、鼻が慣れてきてだんだんとつける量が多く、強くなることがよくあるそうです。こうした鼻の慣れを防ぐには、ときどき違う香水を身につけて、気分と鼻をリフレッシュするのがよさそうです。
また、疲労という現象も見逃せません。香道などでも使われる、セクシー系の春香の香りは、濃度が20分の1の場合、ヒトの鼻は約40秒で香りを感じなくなるといいます。一方でもっと濃度が濃い10分の1では、先はどよりも早い20秒で感じなくなります。これは、においを受容する鼻の嗅細胞が疲れるためです。より強いにおいのはうが、その疲れは早く訪れるのです。強い香水の例は、慣れよりも疲れによる鈍さと考えられます。
また、ペットを飼っている家に住んでいる人が、家に漂うペット臭に気づかないのも同様です。外からきた人はペットのにおいは強烈に感じますので、慣れているのではなくて、鼻が疲れているからということが推測できるでしょう。嗅覚実験に参加するイヌも、嗅覚が疲れたら少し休ませて気分転換をはかってやると鼻の機能が復活し、再度活躍できるようになります。
ヒトでもイヌでも、においを嗅ぐという作業には、集中と緩和のバランスが重要なのですね。
なぜ、においに慣れてしまうのか?
ペットを飼っている家には、動物の特有のにおいが充満しています。ところがそこの住人はすっかりそのにおいに慣れてしまい、においがあることがわかりません。来客があったときに指摘されて、初めて家にペットのにおいが漂っていることに気づきます。これは鼻がペットのにおいに慣れてしまっているから起こります。
鼻がにおいに慣れることに加えて、嗅覚が疲れるということもあります。仏壇などにあげる線香の香りの1つでもある聾香ですが、高級ブランドの香水にも使われている香りです。このにおいの濃度を20分の1にまで薄めると、ヒトの鼻は約40秒で感じなくなります。では、濃いにおいに対しての反応はどうでしょう?
実は、濃度を10分の1にまで高めた場合、今度は約20秒とより早くにおいを感じなくなります。これはにおいを感じる鼻の嗅細胞が強いにおいに疲れるためです。より強いにおいのはうが、細胞の疲れは早く訪れるのです。ペットのにおいを感じないのは、この細胞の疲れが慢性的に起こっていることが考えられます。嗅覚は、はかの感覚よりも疲れやすいようです。しかし、このにおいには慣れて疲れてしまった鼻も、別のにおいになるとふつうに応答することができます。つまり、よそのペットのにおいはわかるのです。これは、においによってにおいのレセプターが違うということから考えられる現象で、選択的疲労といいます。においのプロは、これを利用して鼻の感覚を復活させています。
1日にたくさんのにおいを嗅ぐのが仕事の香水の調香師などは、においに鼻が疲れてきたときに自分の服のにおいを嗅いで、疲れた鼻の機能をもとの状態に戻します。動物実験では、嗅覚疲労を起こしたイヌには無臭空気で鼻を洗浄します。そうすると、においに対する鼻の機能が復活して、実験を続けることができます。
ヒトやイヌの嗅細胞は鼻の上の部分に集中してあります。ヒトの場合は約切手大の面積の中に約500万個存在。この嗅細胞とは、
においの受容器で、先端に数本の嗅繊毛をもつ樹状突起を鼻腔の嗅粘膜内にかして、空気とともに入ってきたにおいと接触します。
この嗅細胞は樹状突起をだしているのとは反対側、脳に向かって軸索をのばし、そのまま大脳の一部である嗅球という部位の糸球
体まで達します。目や耳などのはかの感覚受容体と違い、脳までのシナプス(神経細胞間の情報伝達部位)をもたず、細胞体そのも
のが軸索をのばして走行しているのが、この嗅細胞の最大の特徴です。このような細胞を利用したにおいが認識されるメカニズム
は次のようになります。
- におい物質が空気とともに鼻腔内に入る
- においをもつ物質を構成するにおい分子が、粘液に溶けて入る
- 嗅細胞の嗅繊毛に、2のにおい分子がくっつく
- 嗅細胞が興奮を起こす
- 4の興奮がにおい情報(電気信号)となって嗅神経を通り嗅球の糸球体に達し、さらに僧幅細胞と呼ばれる神経細胞に伝わる
- 嗅球で統合された情報は、さらに上位の大脳の扁桃核、視床下部を経て、嗅覚野へと伝わり、においの識別がなされる
- さらに大脳の連合野や言語野にも伝えられるなど、最終的にはにおいによって惹起される情動・記憶などを形成する
このにおいを感じる基本的なメカニズムは、多くの動物でほとんど同じです。においは大気中を漂っている揮発注の化学物質です。そのにおいとは、いったいどのような物質なのでしょうか?
有機物の主成分は炭素の六角構造からなり、これらがさまざまなにおいを発します。無機物ははとんど無臭ですが、例外としてフッ素、塩素、ヨウ素、臭素、ハロゲン、硫黄にはにおいがあります。オゾンや硫化水素、酸化窒素などは鼻を刺すような刺激数があり、その危険を教えてくれます。
においについてはまだまだ未知の部分が多いのです。先に挙げたにおい物質は10万~40万種類といわれ、無数に存在し、そのよ
うえ、1つの物質に含まれる成分のうち、もっとも多いものがにおいのもとかどうかも、なかなか特定できないのです。
ただ、においの本質を決定するのは、におい物質の分子を構成する元素や分子量、および分子構造にあるといえます。においこ
分子構造の関係に規則畦を見いだすには至っていませんが、
「炭素数8~13の分子構造をもつにおい物質は、香気が強い」
[硫黄や窒素を含むにおい物質があると、においが強くなる」
という多少の規則陸はあります。ただし濃度の問題でまた変化する場合もあるなど、においというものはまったく不思議です。
生臭く特徴的な刺激臭をもつ「オゾン」。腐った卵のような強烈な腐敗臭をもつ「硫化水素」。どちらもヒトに害を与える物質です。これらの刺激臭は、においの強度で危険を教えてくれているのかもしれません。
はかに危険な香りとして、アーモンド臭に似ているとされる「シアン臭」も挙げられます。ヒトが永遠に慣れることができない、いや慣れてはいけないにおいは、このような危険臭なのではないでしょうか?
嗅覚を鍛えるには
五感を感じる感覚器官。そんなヒトの情報収集の最先端の器官でも、加齢には勝てません。
「老化は、目から歯にきて、腰にくる」などと肉体の衰えの通過儀礼の様子がうたわれているように実際に歳を取るにつれてヒトの感覚も鈍くなっていきます。感覚器官の衰えは、目は老眼、耳は遠くなる(難聴)。味覚は味雷の消失により微細な違いがわからなくなる。蝕感は、熱い風呂に平気で入れる。……など挙げていくとキリがありません。では、嗅覚はどうでしょう?
嗅覚は加齢により低下していき、65歳以上の高齢者には、嗅覚の鈍化が認められます。実際の実験では、高齢者がにおいを感じるには若者よりもにおいの濃度が強くなければならないこと、パラなどの花の香りの闘値を見ると、若者と比べて圧倒的に感じ方が弱くなっていること、などがあります。
このようなにおいとアルツハイマー病やパーキンソン病といった疾病について、2000年に日本において行われた研究が発表されています。高齢者76人(平均年齢81.6歳、痴呆症状あり34人、なし42人)を対象にイソアミルアセテート(バナナの香り)やシンナミックアルデヒド仁ッキのにおい)などの8種類の香りについて嗅ぎ分ける試験を実施しました。その結果、痴呆なし群と痴呆あり群で、このニッキとパナナのにおいについて嗅ぎ分ける能力に優劣があることが判明したのです。特にこの2つの嗅ぎ分けができるかどうかで、痴呆の有無を診断することが可能であり、痴呆の早期診断に有効であることが確認され、におい診断薬として特許申請に至っています。また、あらゆる企業や機関でのこのような試験用ににおい試験セットが開発され販売されてもいます。
まさに、においが記憶に直結していることを裏づけているようで、ドキリとします。
においの異常については、3つの段階が挙げられています。
- においがしなくなってしまう嗅覚欠如
- においに対する感度が低下する嗅覚減退
- においの感じ方が通常と異なる異常嗅覚
1や3の場合は、若年層でも嗅細胞が傷ついたことや、なんらかの疾病も考えられますので、心あたりのある方は、一度耳鼻科などで検査することをおすすめします。
3は加齢がかかわっているケースを指していますが、これは復活させる方法があります。その救世主はバニラです。お菓子の香
りづけに使われるバニラは、老化によって感じられなくなる香りとして、はかのあまたある香りを引き離し、大変きわたっている存在です。そこで年齢の違う男女約300人を対象に、バニラを使ったヒトの加齢による嗅覚の比較実験を行いました。濃度の低いバニラの香りをだんだんと濃度を高めて嗅いでもらい、どの段階で嗅ぎ分けることができるか調べるという実験方法です。この結果、年齢が若いはど、濃度が薄いバニラを嗅ぎ分けられることがはっきりと示されました。その一方で、60歳以上になると、嗅ぎ分け濃度にピークが見られず、濃度が高くならないと嗅ぎ分けられない人も多いなど、結果にばらつきが生じています。
さらなる発見は、比較的濃度が低い段階でバニラの香りを嗅ぎ分けられた60歳以上に運動を定期的に行うなどのアクティブな嗜好が認められました。
そこで、嗅覚を鍛える方法です。第1段階として、バニラの香りでチェック。濃くしないとあまり感じないと思った人は、なにか運動を始めてみてから、再度バニラの嗅覚実験を行ってみてはいかがでしょう?
また、嗅盲というものが色覚異状や味盲などとともに知られています。色覚異状の赤・緑など色が見えないというはっきりした症状に比べ、味盲はフェニールチオウレア(PTU)またはフェニールチオカルパミド(PTC)という、一生に一度味わうことがあるかないかというめずらしい苦いものの味だけがわかりません。はかの苦い味(カフェイン、キニーネ)などはわかるのです。もちろん甘味や酸味、塩味、旨味はよくわかるのです。これは遺伝によって、白人>黄色人>黒人の順で多くなっていることがわかっています。嗅覚では嗅盲が知られていますが、これはシアン臭などはとんど日常生活で嗅ぐことはないと思われるにおいについてのみです。
虫が寄ってこないようにするにおいとは
自然由来のハープを使った虫よけや蚊取り線香など、虫が嫌いなにおいを利用して開発された製品は多々あります。虫の嫌いな
香りはその多くが除虫剤として使用、製品化されています。香りとは違いますが、日本では1890年に地中海原産の除虫菊というハ
ープを練り込んだ蚊取り線香が誕生。合成原料が開発されるまで、農薬も含む防虫剤の原料として使われていました。この有効成分ピレスロイドは除虫菊を燃やしたときに発生し、昆虫の神経に働く毒で除虫していきますが、ヒトには無害でした。
はかに植物を利用した防虫剤として、欧米ではティーツリーやユーカリ・ラベンダー・シトロネラなどの精油やハープが虫よけとして使われています。いずれもその芳香成分を蚊やアブなどの虫たちが苦手としているようです。またゴキブリはグローブ・ペパーミント・レモングラスなどの香りが嫌いなようです。鉢植えでもハープの寄せ植えには虫が寄らず、虫食いの被害が少ないケースがあるようで、虫に香り攻撃が効くことがわかります。そんな虫よけハーブ剤の構成内容を見てみると、ユーカリのシトラス成分と柑橘系の香りが集中していることに気づきます。これは、イヌやネコが嫌うのと同じ香り。その相関性が気になるところです。
除虫剤としてもう1つ、においが利用されている例があります。それはフェロモンです。ゴキブリのように集合フェロモンを利用しておびきだし捕獲する。ハチのように天敵の警告フェロモンで虫の訪問を防御する。アリが獲物を見つけたときに仲間に向けてだす追跡フェロモンを利用して、一網打尽にするなど、いろいろと応用されているようです。
猫が好きな香り、嫌いな香りとは
ネコにマタタビ。とてもしゃないけど、抗いがたい欲望のたとえとして使われているこの表現。事実これには本当にネコにとってはがまんできないはど引き寄せられる、麻薬的な要素があるのです。
実際にネコにマタタビを与えてみると、個体差はありますが、酔っ払ったような興奮作用(マタタビ反応)と、くねくねと体をくゆらし、転げまわる独特の反応(マタタビ踊り)を行います。
これはなぜなのでしょう?
マタタビとは、マタタビ科フトモモ属の植物のこと。その本に虫が寄生してできたこぶは木天蓼という、神経痛やリューマチなどに効く漢方植物として使用されてきた歴史があります。日本では沖縄を除く全土の、低い山すそなどに植生しており、意外と簡単に入手できるそうです。マタタビの名前の由来は、疲労困ぱいした旅人がその実を食べたところ、また旅を続けられるようになったことからきています。
大阪市立大学の目教授グループらは、マタタビの葉や茎、果実に含まれるマタタビラクトンとアクチニジンの2つの原因成分を特定。これらを嗅いだネコが脳の中枢神経の麻庫や、陶酔状態に至るということを突きとめました。さらにネコだけではなく、ライオンやトラなど猫科動物全体にその効果がおよぶこともわかっています。同じマタタビ科にあたるキウイにも同様の作用が見られることがあります。ただし、キウイはある程度品種改良が進んでいますので、マタタビのような原種と違ってネコヘの麻薬効果があまり期待できない場合もあります。なお、熟した実のはうが効果が見られやすいともいわれています。
キウイではなく、マタタビでも効くネコと効かないネコがいます。この個体差はどういうことなのでしょうか?
その理由としてマタタビの媚薬効果説が挙げられます。これはメスよりもオスに効果があること。子ネコや去勢ネコには効かないことから推測されています。メスネコの性フェロモン物質に近いにおいと考えられるマタタビの香りにオスネコが誘引されているという見方です。
ところで、これによく似た作用が海の向こうでも研究されています。ネコに対してマタタビのような効力をもつ西洋ハーブ、キャットニップをご存じでしょうか。米国コーネル大学のCorne11Feline Health Centerの研究で、このキャットニップにマタタビ同様の効果が発見されています。キャットニップはシソ科イヌハッカ属に属する植物の1つです。ネコが好む草として、日本ではペットショップではなく園芸店で見かけることが多々あります、この化学成分ネペタラクl、ンがネコの興奮作用を誘発し、ネコをふにゃふにゃの腰くだけ状態にするのは、まさにマタタビ効果同様ではありませんか。しかも、このネペタラクトンはネコの興奮作用だけではなく、リラックス効果もあわせもちます。ネコがそれを食べると、鎮静剤効果があるのです。
さて、このネペタラクトンについては、生後3ヵ月までの子ネコと老ネコがあまり興味を示さないということから、フェロモン説もあります。ネコは嗅細胞とヤコブソン器官の両方から、ネペタラクトンの刺激を受けているのでは?というものです。ネコのメスのフェロモンが、ネペタラクトンに似ているというのはまだ解明されていませんが、なんとなくありそうなことと納得しませんか?
というのも、植物のにおい物質に引き寄せられる動物の例があるからです。クロコブダケというキノコに寄る、クモの例などが挙げられます。前述のマタタビにはネコだけではなく、クサカゲロウという昆虫も引き寄せるなにかがありました。まだまだ未知数の植物のにおい誘引物質。その今後の展開が気になります。
さて、本題のネコの嫌いな香りに移りましょう。イヌ同様にネコもレモンなどシトラス(柑橘)系の香りが嫌いです。なぜ嫌いなのか、その理由は謎です。しかしこの性質が応用されて、花壇への大猫の糞尿よけスプレーやシェルとして販売されています、シトラス系のにおいが漂う花壇には、その香りが苦手な犬猫が寄ってこないというこのシナリオ。劇的という効果ではなさそうですが、エコでマイルドな香りの犬猫よけスプレー。周りのヒトには芳しい柑橘類のにおいというところ、目のつけどころに好感がもてます。また水入りペットボトルはど場所もとりませんし、かつ街の景観も保てるので、一石2鳥の商品ではないでしょうか?
ほかに、ネコはどのような香りが嫌いなのか、よくいわれているようにミントや香水も嫌いな香りの1つなのか、なぜ嫌いなのかその理由はどうなのか、など。これらについてはいまのところ研究データがなくはっきりとしたことはいえません。特にミントは賛否両論のようで、嫌いな香りの代表格に挙げられる一方で、キャットミントなど好きな香りに挙げられることもあります。この相反する現象はネコ特有の心変わりや気まぐれによるものなのか……。今後、ネコの言語翻訳機器ができて、ネコの率直な気持ちを聞くのを待つしかなさそうです。
ネコと香りについては、ネコにあまり好かれていない香りにティーツリーも含まれることがあります。これは殺菌・防虫効果が高いハープで、アロマセラピーをするヒトにはその抗菌作用が知られています。一方それにまつわる悲劇として、海外でティーツリーオイルを直接、大量にしかも継続して塗ったことで、ネコの死亡事故が起きています。おそらく、飼い主がノミ駆除のために手あてした結果の不幸と推量されます。惨事に至って悲しむ前に愛猫への使用はやめたほうがよいでしょう。
アロマテラピーの精油の動物への使用についても、
- かならずオイルなどに希釈して使用すること
- 飲み水には入れない(食用にしない)
- パッチテストをして、アレルギーの反応を見てから使用する
など、ヒト同様の配慮が必要です。イヌやネコとは言葉による共通の意思疎通が難しいだけに一方的に彼らに押しつけるのはよしたほうがよいでしょう。
イヌやネコなどの雑食動物は、嫌いなにおいもまちまちですが、一般的にいえるのが、この柑橘系の香りへの嫌悪でしょう。前述のスプレーのように動物回避剤として、化学薬品ではなく柑橘系によるエコ駆除などに役だててはしいものです。
1つつけ加えることがありました。嫌いなにおいでも、鼻は何回も嗅ぐうちに慣れるということです。これはネコも同様です。よって猫回避スプレーも、対象となる猫の鼻がにおいに慣れてくると、効果が薄れてきます。ご用心ください。
犬の好きな香り、嫌いな香りとは
一般に、野生動物はヒトよりも嗅覚がすぐれているといえます。それは、生存のために欠かせない機能だからなのでしょう。そのなかでも特にイヌは、突出した能力をもちます。警察犬や麻薬犬といった職業犬などはその最たるもので、においを嗅ぎ分ける特殊能力を発揮して捜査に協力し、事件の解決に貢献します。その能力は「イヌはにおいの世界を見ている」という表現につきます。なぜ一瞬においを嗅いだだけでその物質を追跡し、発見にたどりつけるのか?
その理由についてはイヌに直接インタビューはできませんから、においに関するイヌの感覚がどうなっているのかはわかりません。しかしイヌに好きな香りと嫌いな香りがあることはわかっています。
1900年代初めに行われた実験結果では、イヌにムスクやスミレの花の香り、ワセリン臭、イソ吉草酸臭、バラ臭、ヒマシ油臭をつけた紙を嗅がせると、イヌはその紙を引っぱり、食べるような行動を取りました。その一方で、オレンジ、ジャスミン、アルコール、エーテルのにおいには、いやな表情をして顔をそむけたそうです。なぜこのような反応になるのか、この理由についてはわかってはいません。香りも花の香り全般がダメという反応を示してくれればわかりやすいのですが、スミレやパラが好きで、ジャスミンは嫌いということですから、好き嫌いの違いはわかりません。いずれ動物語翻訳機器が開発されて、イヌとの会話が可能になったときに初めてわかる謎なのでしょう。
それではこれはどまでに嗅覚の鋭いイヌなら、自分を「くさい」と思わないか疑間に思うところです。ところが、においに対して鼻の機能には慣れがあります。これはイヌの場合も同様にあります。イヌに実験で何回か同じにおいを嗅がせることを繰り返すと、においを嗅ぐことに鼻が疲れてしまい、その再現性が落ちてきます。つまり、嗅覚が「慣れた」状態になるのです。このような場合、無臭の空気を流して鼻腔内を空気洗浄します。それから実験の香りを流して再度実験を開始するのです。
鳥類の夕力、ハゲタカ、アヒル、哺乳類のラット、両生類のカメ。これらの動物を使ってにおいに対する反応実験を行いました。すると、ふつうの動物の場合においを流し続けていても、数時間は実験できますが、イヌの場合はにおい反応の再現性がすぐに劣化してしまいます。劣化とは、すなわち「嗅覚が慣れた」状態になります。そこで、イヌの場合は特別な対応を施します。まず、ポンプを使ってにおいを嗅がせる前に、十数秒間無臭の空気を流します。続いて、5~10秒間においを流します。そして、次のにおいを流す前にまた無臭の空気でイヌの鼻腔内を洗い流すというように敏感なだけにひと手間をかけて行います。
鼻の慣れからわかる敏感さ。これに輪をかけて、イヌの鼻の敏感さを物語る実験があります。イヌとカメに自然呼吸からにおいを感知させた場合と、ポンプを使ってにおいを感知させた実験を行いました。そこでは、カメの場合は無臭の空気を流しているときは、その吸引を始めてもまったく応答は表れません。においをカメの鼻に流し込んで、初めて急激な応答が見られました。かたやイヌの場合は、空気の吸引を始めるとすぐに、無臭の空気が流れている状態なのに若干の応答が起こります。そして、においを流し始めるとさらに大きな応答をします。
この結果は、イヌの場合は、まったくにおいがない空気でも、なんらかの嗅覚応答を起こしていることの表れです。このときにカメの鼻とイヌの鼻の中のにおいを嗅いだところ、カメの鼻の中のにおいはあまりにおいません。しかし、イヌの鼻の中はなんともいえない、いやなにおいがします。これは嗅粘膜や、鼻腔内上皮にある各種分泌腺がだす分泌物のにおいだと思われます。たぶんイヌは吸気を行うときにこの分泌物のにおい自体にも応答しているのではないかと考えられます。推測するに、イヌの鼻のよさの理由は鼻の構造の複雑さや、そこからだされる分泌物のにおいが、外部から入ってくるにおいと混じりあい、探知への相乗効果を深めているのだと想像されます。
これらから、イヌは自分の鼻の中のいやなにおいにも敏感であり、呼吸とともに随時嗅いでわかっていると思われます。ただ、自分の体がくさいことについてはどうなのでしょうか? これについては鼻が慣れてしまい、もはや感じていないのではないでしょうか。または気づいていても、入浴や洗浄することで体のにおいが取れるという経験則がないため、慣れてしまうはかないとあきらめているのでしょう。ただ、ネコは自分のにおいを取るために砂や草の中で転がりまわります。これは狩猟のためににおいを消すといわれていますが、イヌでもときどき見かけます。これも本当のところは、イヌに直接聞ける日を待つしかなさそうです。
嗅覚の鋭い動物
1位はイヌです、といいたいところですが、実ははっきりしていません。それは動物たちの意見を聞くことができないからです。しかし、ある判断の基準があります。それは鼻の中の嗅粘膜の大きさです。嗅細胞の大きさや形にはそれはど差はありませんが、これだけは各動物で大きく違いが見られるのです。イヌの嗅粘膜は鼻腔内の大部分を占めています。しかしヒトは、イヌと比べると非常に小さいのです。嗅粘膜の広さは、成大のシェパードなら170平方センチ。ヒトは2.4平方センチというのですから、どれだけ大きいかがわかります。イヌには約2億個の嗅細胞があり、そのおのおのが30~50ミクロンの長さの嗅繊毛を約125本もっているので、嗅細胞の先端と嗅繊毛のすべての表面積が、イヌだと約7.9平方メートルになります。 一方、ヒトには約500万個の嗅細胞があり、おのおの1~2ミクロンの嗅繊毛をもつので、総面積は0.00075平方メートル。ヒトはイヌの1万分の1にしか満たないのです。この広さの違いが単純に嗅覚の差につながるかといえば、それもはっきりとはわかっていません。
またこのはかに嗅細胞や嗅繊毛、嗅球の大きさにもよると考えられています。イヌのはかに鳥やラット、ウサギ、カメ、ヘビなども、体に対して比較的大きな嗅球をもっていますが、これが直接においに対し反応が高い理由であるかという点については、まだわかっていません。
鳥類も嗅覚がよいのはご存じでしょうか? 1995年オウム真理数による地下鉄サリン事件が、東京都内の地下鉄を中心に起きま
した。その後、オウム真理教の本拠地を調査するときに、毒ガス、サリンの探知機としてカナリアが登場しまレヒ毒ガスマスクと防護服の手先にぶらさげられたかごの中で、そのすぐれた嗅覚使っている姿が、脚光をあびました。カナリアは炭鉱のガス漏れ検知などにも使われた事例があり、毒ガスセンサーとしての経歴をもちます。カナリアはごく微弱なガスのにおいに、敏感に反応します。鳥類でほはかに トンビが10~30メートル上空を旋回して飛びながら、体温で上昇してくるネズミの体臭を嗅ぎつけます。それを追跡して、今度は視覚でとらえて捕獲します。
また魚類では、ウナギの嗅覚の鋭さははかに類をみません、においの種類によってはイヌ以上の嗅覚を発揮するともいわれます。
ウナギを飼っている池の中にアミノ酸溶液だけで、群れをなして集まってきます。ウナギの嗅覚は、1万トンの水の中の1グラムのアミノ酸だけでも感知できるといいます。ウナギは南洋で生まれ、大きくなるに従って北上を始め、日本などの川を遡上します。その生態はまだ十分にわかっていません。ただ、暗闇の中で獲物を捕獲するようで、魚類の場合は視覚が弱いものはど、嗅覚がすぐれています。ウナギはその代表格といえるでしょう。
サケが生まれ故郷の川に帰ってくるのも、その川のにおいに対する記憶によります。ウミガメが産卵のために生まれ故郷の島に帰ってくるのも同じ様です。
鼻の長いソウも、嗅覚がよさそうな見た目どおりに、鋭い鼻もつ動物です。白人のゾウ狩りが盛んなころにゾウは白人を極度に恐れていました。一度狩りを逃れたゾウは、5キロ離れた場所にいる白人を察知できたといいます。しかも、現地人が同じくらい離れたところにいる場合は、逃げもせずに悠々としていたというのです。このことからわかるのは、ゾウは5キロ離れたところの白人と現地人のにおいを嗅ぎ分けているということです。また、地下にある水のありかを嗅ぎあてるので、ゾウについていくと、乾季の水不足のときに水にありつけます。
動物がこのように鼻がいい理由には、大きく3つあるといわれています。1つ目は食に関するもので、食べられる物と食べられない物を選別すること。2つ目はその場の環境の変化を知ること。3つ目は敵と仲間とを判別すること。これらには敵からすばやく逃げるためにそのにおいを察知することや、交尾のためにメスを探すオスの行動も含まれます。
その一方で、目が発達したヒトなどの霊長類や、腐肉を食べるコンドルを除いた鳥類などは、それはど嗅覚が発達しているとはいえないようです。昆虫などを食べるコウモリも、嗅覚よりもソナーのような音波による位置確認によって捕食し、もともと陸上動物だったクジラもいまだに水中生活に嗅覚が順応しているとはいえません。代わりに発達しているのが聴覚という状況なのです。
このように、イヌがヒトよりも嗅覚が発達しているのは、周知のとおりです。しかし、日々訓練している調香師などは、数千もの香りを嗅ぎ分けることができます。そのため、におい分析の機械、ガスクロマトグラフを用いても検出されないはど、薄いにおいを調香師たちは嗅ぎ分けられるのです。もちろんヒトなので、体調による変動はあります。1日のうちで朝・昼・夜によっても変わります。しかし、この調香師の例は、訓練次第でヒトの嗅感覚はとぎすまされるという、最たる例なのです。
嗅覚でランクづけることの難しさを、少しわかっていただけましたでしょうか?