嗅覚は五感の中でも原始的な感覚だからではないか、という推測です。視覚・触覚・味覚・聴覚はすべてそれぞれの目や肌や舌や耳を通じて得られた刺激が、脳の視床に集められ、それから、それぞれの脳の感覚分野へと運ばれます。しかし、嗅覚だけはこの視床を通らず、ほぼダイレクトに脳へ刺激が直送されます。

なぜ、香りで記憶が蘇るのか?

「皮のにおいを嗅ぐと、初めて野球のグローブを買ってもらったことを思いだす」と語ったタレントさんがいました。彼が初めて父親に買ってもらったグローブ。それほど裕福ではなかったときに、父親が子どものために無理して買ってくれた状況と、ずっとほしかったグローブを買ってもらった気持ちとが相乗して、強く脳に訴えかけたのです。その当時ではこのうえなく感じられた幸せが、皮のにおいといっしょになって、記憶に定着しました。においと強い感情がセットに記憶されると、非常に詳細にその状況を覚えていることが多いようです。これは誰もが一度は体験しているのではないでしょうか?

では、においが記憶のインプットに役立つかというと、まだメカニズムが解明されていないので、はっきりと断言はできません。

記憶のおもなものには、エピソード記憶と意味記憶があります。 「小学4年生の夏休みに北海道のおばあちゃんの家に行って、とうもろこしを食べたら、すごくおいしかった。それからとうもろこしが好きになったjというような個人的体験にもとづき記憶されるのが、エピソード記憶です。感情や体験をもとに物語のように記憶されるので、忘れにくいのがこの記憶です。また意味記憶は、学習での暗記記憶です。小学4年生では、数学で分数を習いました。分数は分母と分子から成り立つ、などと記憶したと思います。このような記憶が意味記憶で、とても忘れやすいのが特徴です、そこで無味乾燥に暗記するのではなく、物語性をつけて覚える暗記法が中学生になってからのエピソード記憶です。社会科の歴史で1192年鎌倉幕府設立を「いい国(1192年)つくろう鎌倉幕府」のように語呂合わせをした記憶がよみがえりませんか? また「分数は、分母はお母さん、分子は子ども。だから母親の上に子どもがいるんだよ」というストーリーで覚えたという経験があると思いま
す。意味記憶をエピソード記憶に置き換える作業で、学校でも取り入れられている暗記方法ですね。

ではどうして味覚ではなく、触覚や視覚でもなく、嗅覚がこのように強い「記憶の引き出し効果」を起こすのでしょうか?

その理由の1つとして考えられるのが、嗅覚は五感の中でも原始的な感覚だからではないか、という推測です。視覚・触覚・味覚・聴覚はすべてそれぞれの目や肌や舌や耳を通じて得られた刺激が、脳の視床に集められ、それから、それぞれの脳の感覚分野へと運ばれます。しかし、嗅覚だけはこの視床を通らず、ほぼダイレクトに脳へ刺激が直送されます。ボクシングでもグローブというクッションなしで、ゲンコツをもらったら痛いですね。このように直に伝わった刺激が嗅覚と考えたとき、脳に与える影響力が、はかの五感と比較するとはるかに強いだろうと予測できます。

この記憶とにおいのしくみが科学的に解明されていたら、商品化して起業するチャンスでしょう。年々国家資格の試験は難しくなる一方です。合格の確率の低い試験に受がるために受験生用の暗記フレーバーや学習用アロマはニーズが高いものと考えられます。しかし、まだ現実には商品化されていません。

ここで、男性の方には朗報かもしれない実験結果があります。ある番組で「娘の好きなにおいはお父さんのにおい?」という実験を試みました。結果自分の父親の体臭がしみついたシャツを「いい香り」と申告したのです。幼いころからかわいがって育ててもらった親への愛着から、慣れ親しんだ香りが好ましいという選択をさせたのでしょう。フェロモンの謎を解く鍵も、もしかしてここに隠されているのかもしれません。

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